スクリーントーンのモアレ除去 — 漫画・同人誌スキャンを綺麗にする方法

7月 3, 2026

丁寧にトーンを貼った原稿や、思い入れのある同人誌をスキャンした瞬間、トーン部分一面に波模様や格子状のノイズが浮かび上がる——。これがスクリーントーンのモアレです。漫画・同人誌のスキャンで最も頻繁に起こるトラブルであり、再録集の制作や電子書籍化を志す作家・アーカイバーの共通の悩みでもあります。

この記事では、なぜスクリーントーンがスキャンでモアレを起こすのか(線数とDPIの関係)、モアレを最小限にするスキャン設定、そして残ったモアレを線画を潰さずにAIで除去する手順を、同人誌の再録・電子化ワークフローに沿って解説します。

スクリーントーンとは — 線数と濃度のおさらい

スクリーントーンは、網点(ドット)や線・グラデーションが規則的に印刷されたシートで、白黒原稿に影やグレー階調を表現するために使われてきました。現在はクリスタ(CLIP STUDIO PAINT)などでのデジタルトーンが主流ですが、印刷された同人誌や過去のアナログ原稿には物理トーンがそのまま残っています。

トーンの規格は次の2つで表されます。

  • 線数(L数) — 1インチあたりの網点の列数。漫画では60Lが標準で、影に50L〜60L、肌のアミには85L前後の細かいトーンがよく使われます。
  • 濃度(%) — 10%、30%、50%など、面積に対する網点の割合。

「60L 30%」なら、1インチに60列の網点が並び、面積の30%が黒。この規則正しい繰り返しパターンこそがトーンの美しさの源であり、同時にスキャン時のモアレの元凶です。

なぜトーンはスキャンでモアレになるのか

スキャナーは原稿を一定間隔の画素グリッドでサンプリングします。トーンの網点もまた規則的なグリッド。周波数や角度がわずかに異なる2つのグリッドが重なると干渉が起こり、元のどちらよりもずっと大きな波模様——モアレ——が生まれます。雑誌スキャンの網点干渉と同じ原理ですが、漫画原稿では次の3つの理由でさらに深刻になります。

1. トーンの線数とスキャンDPIの関係

モアレが最も強く出るのは、スキャナーのサンプリング周波数がトーン線数の倍数付近に来たときです。60Lのトーンを300dpiでスキャンすると、網点1個あたり約5×5ピクセルしか割り当てられず、丸い点を表現しきれずに縞状のエイリアシングが発生します。85Lの細かいアミなら約3.5ピクセル/点とさらに悪化。低DPIの漫画スキャンが印刷物よりはるかに汚く見えるのはこのためです。

2. トーンの重ね貼り部分が最悪のケース

漫画ではトーンの重ね貼りが日常的に行われます——同じ網トーンを少し回転させて重ねて濃い影を作る、グラデトーンを平網の上に重ねる、など。1枚ごとに独立したグリッドなので、スキャナーは3つ以上の周波数の干渉を同時にサンプリングすることになります。重ね貼りの影やカケアミ背景がスキャンで一番激しくモアレを起こし、しかもぼかし系の補正で真っ先に潰れるのもこの部分です。

3. JPEG圧縮と縮小がモアレを増幅する

600dpiで綺麗にスキャンできても、Web用に安易に縮小したりJPEGで保存したりした瞬間にモアレが再発します。リサイズ自体が再サンプリング=干渉スタックに4つ目のグリッドを追加する行為だからです。

漫画・同人誌のための正しいスキャン設定

スキャン段階でトーンモアレを完全に防ぐことはできませんが、後工程で綺麗に除去できるだけの情報を残すことはできます。

  1. 600dpiでスキャンする。 600dpiなら60Lトーンの網点1個に約10ピクセルが割り当てられ、ソフトウェアが「点」として認識できます。85Lの細アミや再録予定の原稿は1200dpiグレースケールがさらに安全。トーン原稿を300dpi未満でスキャンするのは避けてください。
  2. 白黒ページはカラーではなくグレースケールで。 カラーモードはRGBチャンネルのずれによる虹色モアレを追加します。8bitグレースケールの方がクリーンでファイルも軽い。カラーが必要なのは表紙・口絵だけです。
  3. スキャナー付属のモアレ除去(Descreen)機能はオフに。 ドライバー内蔵のフィルターは雑誌の網点(133〜175線)向けの単純なぼかしで、漫画のトーンには合いません。主線やカケアミまで滲ませた挙句、モアレは中途半端に残ります。素のままスキャンして、後から処理しましょう。
  4. 原稿を平らに。 同人誌はノド(綴じ側)でページが湾曲し、トーングリッドが歪んで不均一なモアレを起こします。軽く押さえるか、永久保存用なら解体(バラし)も検討を。
  5. マスターはPNGかTIFFで保存。 マスタースキャンにJPEGは厳禁。圧縮ノイズがトーンパターンと結合し、後から分離不可能になります。

AIでスクリーントーンのモアレを除去する手順

従来の方法——ガウスぼかし+シャープ、PhotoshopのCamera Rawモアレスライダー——には、60Lの網点とカケアミの線、小さな写植文字を見分ける能力がありません。全部まとめてぼかしてしまいます。一方、網点・トーンパターンで学習したAIの網点除去モデルは、干渉パターンだけを溶かし、その下の線画を再構築します。

無料の網点除去ツールを使ったワークフローは次の通りです。

  1. 600dpiグレースケールでスキャン(ドライバーのモアレ除去はオフ、PNG保存)。
  2. 網点除去ツールにページをアップロード。 印刷網点・トーンパターン専用にチューニングされています。
  3. 出力解像度を選択 — 電子書籍配信なら2K、再録・再印刷するページなら4K。
  4. AIに処理させる。 トーンの周波数(重ね貼り部分を含む)を検出し、主線・カケアミ・写植を保ったまま干渉だけを除去します。
  5. 比較してダウンロード。 重ね貼りの影やグラデトーン部分を100%表示で確認してください。ぼかし系との差が一番はっきり出る場所です。

カラー表紙の撮影・スキャンで虹色の干渉が出た場合は、RGBチャンネルのモアレに対応したモアレ除去ツールの方が適しています。

同人誌の電子化ワークフロー — 再録集と電子書籍

トーンモアレ除去が本当に効いてくるのは、次の2つの実務シーンです。

再録集の制作。 昔の同人誌を再録集にまとめるとき、デジタル原稿がすでに手元になく、印刷された本しか残っていないことは珍しくありません。印刷済みのページをスキャンするということは、印刷所で一度網点化されたトーンを再サンプリングするということ——モアレは確実に発生します。600〜1200dpiでスキャン→AIで網点除去→入稿先の規定解像度(本文なら二値600dpi、グレースケール350dpiが一般的)で書き出し、という順番が正解です。

電子書籍化。 電子書店の推奨サイズは長辺1200〜2000px程度。トーンが残ったままの生スキャンをそのサイズに縮小すると、トーン部分全面に新しいモアレが発生します。正しい順序は「フル解像度のまま先に網点除去→それから縮小」。網点除去済みのページはドットグリッドではなく滑らかなグレーになっているので、どの端末解像度にもクリーンにリサイズできます。

印刷入稿用にはロスレスのマスターを保持し、Web告知用のサンプル画像は網点除去とリサイズが終わってからJPEG(品質85以上)で書き出しましょう。

よくある質問

印刷された本は綺麗なのに、スキャンするとモアレが出るのはなぜ?

紙面は人間の目で見ており、目はグリッドでサンプリングしません。スキャナーは固定周波数でサンプリングするため、トーンの線数と干渉します。モアレはデジタルデータの中にだけ存在し、紙の上には存在しません。

トーン原稿は何dpiでスキャンすべき?

50〜70Lのトーンなら600dpiグレースケールが最適です。85Lの細アミや再録予定の原稿は1200dpiを。300dpi未満では網点のエイリアシングが激しく、AIでも細部を復元しきれなくなります。

スキャナーのモアレ除去(Descreen)設定は使うべき?

いいえ。内蔵フィルターは雑誌向け周波数を狙った単純なぼかしで、漫画が命とする主線やカケアミまで柔らかくしてしまいます。素のままスキャンして、専用のAIツールで後処理する方が確実です。

トーンの質感(網点の粒)を残したままモアレだけ消せる?

まず目的を決めましょう。電子書籍用のクリーンなページが目的なら、完全な網点除去(トーンが滑らかなグレーになる)が普通は正解です。網点の粒感を見せたい場合は、1200dpiでスキャンして慎重に縮小する方法もありますが、リサイズを行う限りモアレ再発のリスクは残ります。

重ね貼りしたトーンのモアレが特にひどいのはなぜ?

トーン1枚ごとに独立した規則グリッドだからです。2枚重ねならスキャナーのグリッドと合わせて3つの周波数が干渉します。ぼかしフィルターはこの多重干渉に対応できませんが、AIモデルは複数周波数の網点を同時に検出・除去できます。

まとめ

スクリーントーンのモアレはスキャンの失敗ではなく、規則的なトーングリッドと規則的なセンサーグリッドが出会ったときに必ず起こる物理現象です。対策は2段構え——クリーンに取り込む(600dpi・グレースケール・内蔵Descreenオフ・PNG保存)、そして賢く除去する(60Lの網点と主線を見分けられるAIで処理する)。再録集の制作でも電子書籍化でも、リサイズの前に無料の網点除去ツールにスキャンを通せば、トーンは干渉ノイズではなく、本来の滑らかな影として画面に残ります。

関連リソース


このガイドはモアレラボチームによって執筆されました — 2023年以来10万枚以上の写真からモアレを除去してきた画像処理のスペシャリストです。すべての方法は実際のスキャン画像でテストされています。

モアレラボチーム

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